#095 ホームレス、障がい者、高齢者の人たちへの支援活動を推進する(3)

森川すいめい(精神科医)

聞き手/中野羊彦・上野周雄

「5つの質問」「マネジメント・スコア・カード」

自分の所属するNPOの運営に、ドラッカーから学んだマネジメントの知識を活かした。いくつかのNPOの運営やコミュニケーションに、ドラッカーのマネジメントを活かすとともに、訪問看護ステーションKAZOCの立ち上げにも活かした。これまで無償で行われていた支援活動のいくつかを永続可能なものとすべく、KAZOCは、この無償部分のいくつかを「事業」として運営することに成功している。

KAZOCは、医師の指示を受けた看護師等が要介護の認知症や精神障害をもつ人の居宅を訪問し、療養上必要な処置や、生活支援に関するサービスを行うものである。KAZOCは経営にあたって、ドラッカーの「5つの質問」「マネジメント・スコア・カード」などの手法を活用し、事業として成り立たせた。

イノベーションを伴う新しい事業

また、森川氏は認知症や精神障害者の人たちのための訪問診療を開始した。訪問診療自体がイノベーションである。高齢者が増加すると、認知症をもつ人が増加する。すると、認知症を誰が診るのかという問題が起きる。内科医は精神科の領域と考え、精神科医は病院で待っているために認知症のひとの生活の場を知らないから治療方法を知らない。ドラッカーは、イノベーションを伴う新しい事業は、従来の事業から切り離せと言う。

そこで、訪問診療のチームを、新しい事業として病院業務から完全に切り離した。そのために、チームは患者ニーズに集中することができた。この結果、支援が必要な人には、すぐに支援ができるようになった。家族関係が悪くなる前に介入することができ、将来の施設入所や病院への入院の機会を減じることができた。

森川氏は、2015年のドラッカー学会の総会において、「どうして非営利組織がホームレス・介護・福祉・精神医療社会を変えることができたのか」と題して、発表を行った。

今後の課題

現代日本では、少子高齢化が進展し社会のゆとりがなくなる中で、経済的効率性についていけない人に対する排除の論理が強くなっている。森川氏が推進している、ホームレス、障がい者、高齢者に対する支援活動は益々重要性を増している。森川氏は、これらの支援活動を広げ、「ハウジングファースト東京プロジェクト」(ホームレスの人たちに家を提供する活動)などに、「5つの質問」「マネジメント・スコア・カード」の手法を適用しようとしている。森川氏は、ドラッカーの教えを実践し、「すべての人に安心できる居場所を提供すること」を目指して、さらなる活動を広げていく。

 

 

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